おばさんの恋

40代になっても恋に憧れるおばさんの妄想

妄想癖

素敵なひとと出会うと

すぐに恋の妄想に駆られる

なぜか、振り向いてもらえるような気がするのだった。

いいおばさんのくせに、妄想女。



その先生は

仕立ての良いスーツをさりげなく着こなして

年に数回の委員会に出席されるのだった。

思慮深い発言はいつも、言葉を丁寧に選んでいることがわかる。

専門家にありがちな、現場を知らない発言は一切なかった。

歳は私より10歳くらい上。

プライベート、不明。

家庭の匂いがしないひとだった。


仕事の連絡や会議出席のお礼メールには

いつも律儀に返信があった。

労をねぎらう言葉の端々に

うっすらと好意を感じる

妄想全開なわたし。


あるとき、同じパソコンを見ながら2人で会話することがあった。

至近距離。

説明しながらマウスを動かすわたしの手と

画面を指さす彼の手が交差する。

忘れかけていたドキドキ感。


夜、ベッドの中で

長い睫毛の横顔を思い出していた。

彼の手が、そっと私の手に重なる。

先生はキスするとき、メガネを外すのだろう。

そして、そっとわたしの肩を抱くのだろう。

膨らむ妄想。


年度変わりを前に

忙しくなったから委員を辞退したいとの連絡を受けた。


このまま、会えなくなってしまう。

もう一度考えてもらえませんかと

メールを書こうか迷ったけど

わたしはそんな立場ではないし。

何度もメールを書いては消した。


会議でお目にかかれることをいつも楽しみにしていました。

先生に会えなくなるのがとても残念です。


逡巡した挙句

そのメールは出せなかった。

出したとしても

いつもと同じく

丁重に言葉を選んだ返信が届いたのだろう。


しばらくして

お礼のメールが届いた。


お世話になりました。

また何かあれば遠慮なく連絡をください、と。


ありがとうございました。

先生のおかげで

少しだけ、恋の予感にふるえました。

何かなくても、先生にメールしていいですか。


そんな返信ができるはずもなく。


もうすぐ、先生のいない委員会が開催される。

何事もなかったかのように。