おばさんの恋

40代になっても恋に憧れるおばさんの妄想

ガーベラの花束

その男には妻子がいて

恐妻家とのもっぱらの評判だった

そしてわたしの上司でもあった

そんな男と長年付き合っていた

まだ若かりし頃


奥さんの誕生日と結婚記念日には

必ず花束をプレゼントするらしい

社内では有名な話だった


ある日、と言っても

その日はたしか彼の結婚記念日

帰り際に、彼の車が駐車場に停めてあったので

つい覗き込んでしまった

後部座席には

ガーベラの花束


愛妻家のくせに

わたしなんてただのツマミ食い

ひどい男


そのガーベラを見てもなお

男とは別れられなかった

可哀想な自分に酔っていたのだと思う

カビの生えた一人芝居


別れてしばらくしてから

風の噂で、男が離婚したことを聞いた

何がしたかったの

誰を愛していたの


なんたる時間のロス

そんなことをしているうちに

わたしの20代は呆気なく終わった


もう、二度と会うことはない

もう二度とあんなみじめな恋はするまい