おばさんの恋

40代になっても恋に憧れるおばさんの妄想

どこか遠くへ

どんなに望んでも

彼の心は離れていくのだった

少しずつ

わたしの存在感が薄くなって

心のスペースを何で埋めればいいのか

わたしには分からなくなりそうだ。

どこか遠くへ行きたい

わたしを知る人がいない場所へ

いつもそう願っていた

けれど、地球の裏側であっても

わたしは紐付きだったし

もはや逃げる事は叶わないと

わたし自身が一番よく知っている

いつか彼が一人になる時は

どんな生活をするのだろう

わたしがプレゼントしたコーヒーミルで

濃いめのコーヒーを二人分

彼は淹れてくれるだろうか

忘れたいこと

わたしは記憶力がいいほうである

割と細かいことをよく覚えているし

記憶を紐づけることも得意だ

勉強はできないのに

人に関係することは

忘れたくても忘れられないのだ

 

忘れたいことなんて

腐るほどあるよね

もう忘れさせてよ

悲しかったことや悔しかったことは

思い出さなくても生きていけるのに

 

庭のアイビーを剪定しながら

夫はやさしくわたしに笑いかけるのだった

このひとが知らなくていいことを

わたしはもう忘れたい

 

今ここにあるなんでもない幸せを

わたしが死ぬその瞬間まで

忘れないでいられますように

色彩のない恋

好きな人を前にしても

イロコイという言葉がまるで当てはまらず

健全かつ鈍重なデートを重ねて

彼との恋はそのまま終わった

 

発展しなくてよかったんだ

無駄な努力も余計な色気もいらない

お友達になりたかったの?

いいえ、そうではない

わたしだけを見て

わたしだけに好きだと言ってくれる

恋人ってそういうものではないの?

 

もういいの。よく分からないや。

ノローグだった

人目につかないよう注意するなんて

不健康な逢引きを重ねるなんて

ただのデートで

二人で食事をするだけで

なんと不毛なことでしょうか

 

色彩のなさにわたしは

幻想を描いていたのかもしれない

明日は雨ですか

独りで、泣いてもいいですか

迷走する恋

仕事を辞めてしまいました

もう先生にも

あのひとにも会えない

黙っているのは流石に大人気ないから

さようならと言った

彼はひどく驚いた顔をして

そうですか、残念ですと

大人な挨拶を交わす

わたしと一度だけ、一度だけでいいですから

といえないままに

彼は会釈をして部屋を出ていった

何も、変わらなかったんだね

彼の心は1ミリたりとも

どうして恋がしたかったのか

分からなくなりました

たしかに愛されていることを

誰からの言葉に見つけたかったのか

わたしは空っぽで

あてもなく彷徨っている

フェイクな恋

いろいろ考えすぎる癖があって

何かが気になるとそこから抜け出せない

そんな時わたしは

ありもしないsexとか

妄想のキスで思考を散らすのだった

彼がわたしを抱くシチュエーションは

どんなに妄想しても浮んでこない

もう枯れたのかな

してもしなくても

わたしは大丈夫だからって

本気で答えてしまいそうだ

あなたが結婚相手ならよかったのにと

今でも彼は言ってくれるだろうか

フェイクでもいいの

恋愛の対象になってみたい

熱くならない恋

ぬるま湯のような恋

いつまでたっても芯まで温まることはなく

何の効能もないのだけど

出るに出られないまま留まっている

 

この恋は40℃未満

お湯はどんどん冷めていく

もうすぐ風邪をひいてしまうね

 

時々カンフル剤を打って

わたしはまた湯船に戻る

熱くならない恋

ここから出ても

またすぐに戻ってしまいそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽物の恋

忘年会と称して食事に行った

彼は普段よりもよく喋り

わたしはいつもより聞き役だった

このところダメなことばっかりで

本当にダメなことばっかりで

自分のことを話す気力もない

だから、彼が楽しそうに喋っているのが

今のわたしにはちょうどよかったのかもしれない

 

ダメな自分を否定しない人といるのは

ただの現実逃避ですか

何の解決にもならないけれど

目の前にいるひとがわたしを好きでいたらいいのに

彼には分からないだろう

そこに恋があると信じたいおばさんの気持ちなんて

 

ずっと電車に乗ったまま

どこにも到着しなければいいのにと思う

電車を降りてホームを歩くとき

いつも自分が偽物に思えて途方に暮れる

この恋もきっと本物じゃない

寂しいおばさんが生み出した偽物の恋