おばさんの恋

40代になっても恋に憧れるおばさんの妄想

たとえあなたが死んでも

たとえあなたが死んでも

わたしはあなたのお葬式には行かない

彼女は連絡をくれるだろう

亡くなりましたと言うだろう

わたしは行かない

絶対に行かない

泣けないし泣くとも思わない

なんとも思わないだろう

お世話になったのかもしれない

でもね

あなたに対して

どんな感情も湧き起こらないほどに

わたしはあなたを憎み切り

どうでもよくなった

たとえあなたが死んでも

たったの1秒たりとも

懐かしいという気持ちにはならない

わたしは断言する

あなたには全く興味がない

わたしの過去から

早く立ち去ってください

ほんの小さなささくれ

どうでもいいことで

夫と少し険悪なムードになった

4年に1回くらい

夫とわたしはささやかなケンカをする

 

夫の言い方にカチンときたのだった

中身は思い出せないくらい たわいもないこと

だけど、いつも夫はそういう言い方をする

普通に答えればいいのに

なぜ乱暴に言葉をぶつけてくるのか

 

そのことを指摘しても

本人には自覚がない

だから余計にタチが悪い

少しずつ、好きでなくなってしまうよ

 

脳内の逃避がうまくいかない

いつもなら

脳内逃避でやりすごせるのに

きっとわたしは寝不足なんだな

 

夫はもともとそういう話し方で

ときには許容できない日もある

エラそうになんなのよと思っても

黙っていたらそれで終わること

 

コーヒーを入れてドアを閉めた

本当に、愛は4年で消えるのかな

 

 

 

似合わない服

何を思ったか

彼が洋服をプレゼントしてくれると言う

ショッピングデートで素敵な街へ

 

でもわたしね

欲しいものなんてないの

靴とかコートとか言ったものの

彼に散財させたくないし

気に入ったものも見つからない

時間ばかり過ぎて焦る

 

ごめんなさい、女の買い物につきあわせて

飽きたでしょ?

呆れたでしょ?

 

僕も楽しいからいいんですよと

彼は優しく答える

なんでそんなにいい人なんだ

でもわたしは知っている

結婚したらそんな優しさが

いつまでも続かないことを

 

こんな色はどうですかと

彼が選んでくれたセーター

試着してみた

鏡に映った自分は

中肉中背のくたびれたおばさんだった

その瞬間に

悲しいほど夢から覚めた

 

ああ、わたしったら現実を置き去りに

何をウキウキはしゃいでいたんだろう

オトメになったつもりで

なんと見苦しく笑っていたのだろう

楽しい時を過ごさせてもらった

もう帰らなきゃ

 

人生のいい時は終わった

あとは緩やかに降りていこう

少しずつ、持っていたものを手放して

似合わない服から卒業して

ゆっくりと歳をとっていこう

 

似合わない服が教えてくれた

もう戻れない時間を

不器用で優しい恋

彼の不器用なやさしさに

わたしはいつの間にか溺れている

となりに座って

何も話さなくていいから

ただ一緒にいたいだけ

 

いつの間にか夕闇が迫る

帰りたくないのに

このまま夜が来なければいいのに

 

わたしが無理やり食べさせたアジアン料理を

美味しかったですよと笑ってくれた

優しいひとは

帰りにスーパーに寄って

夕食の買い物なんかをするのだろう

不器用で優しい人に

いっぱい幸せが訪れますように

 

もうあなたには興味がない

出会い頭にボディブロウを食らって

激しい目眩を覚えたのだった。

何?なぜ今そんなことを宣言するの?

彼はもう一度はっきりと言った

もう、あなたには興味がないんです

キョウミガナイ

キョウミガナイ

仕方のないことだ

最初からわたしに興味なんてなかったくせに

舞い上がって喜ぶおばさんを見て

バカな女だと思っていたくせに

かつては興味があったかのように

そしてあたかもそれが失われたのは

わたしのせいであるかのように

彼はその言葉を放つ

夜の闇に吸い込まれてしまえばよかった

あの長い歩道橋から

月を眺めながら一人歩いた夜に

消えてしまえばよかった

わたしはヘラヘラと笑う

興味ないのか、残念だなあとか

心にもない言葉が口を継ぐ

大人の事情だから、ね。

次の電車が来るまで待つよ

ここでさようならしましょう

ストレスと恋

休みの日は何をするわけでもないのに

あっという間に終わる。

主婦も案外忙しいものだ。

あれもしたい、これもしたい

そう思いながら

夫の好物を作るために買い物に出たりする。

わたしは夫のことが大好きだ。

好きになりすぎるとしんどいから

他の人に恋を求めているのかもしれない。

相変わらず夫は

LINEにもショートメールにも

返事をよこさない。

それでもわたしは 今から帰るよと連絡を入れる。

既読はつかないことの方が多い。

そんな関係だから

夫はあまり気にしない人だから

わたしのストレスにも

気づかないのでしょう。

喉の奥にボールが詰まったみたいな

焼けるような痛み

分からないんだ

わたしはどうして欲しかったのかな。

老いらくの恋

残業帰りの地下道で

手を握って立ち止まる高齢カップ

男の人の手には結婚指輪

ちょっと迷惑そうな高齢女性を

口説いている雰囲気

でもなんだか2人とも

キラキラしているように見えた

いくつになっても恋をしなさい

他人を傷つけないような

優しい恋をしなさい

若いうちは恋をしなさい

たくさん傷つけて傷つけられて

自分の気持ちと向き合いなさい

たくさん恋をしたおばさんからの

余計なお節介です